2011年1月27日木曜日

16.ストレス下における「信頼関係」

チームにおけるお互いの信頼関係。このような言葉は、なんとなく大切であることは理解できますが、これが具体的になぜ必要なのかと問われると、ちょっと首をひねってしまうかもしれません。普段の仕事においては、信頼関係について、特に気にすることもなく、無くても何がどうなるというものでもない、そんなふうに考えているかもしれません。確かに、決まりきった仕事をする上では、あまり意識する必要はないかもしれません。

しかし、非常に精神的に強いストレスを感じるような場面では、話が全く違ってきます。危険を伴うような仕事、自分の能力を上回る仕事、何が起こるか分からないような不確定要素の多い仕事、何かの強いプレッシャーを感じてしまうような仕事においては、この信頼というものが必要となってきます。信頼関係というものは、不安やストレスから身を守る心の安全ネットのような役割を担います。このような安全ネットがあって初めて、ストレスやリスクのあることに向かって立ち向かうことができるのです。

「そんな仕事、まだやってたんだ」、「それはあなたの仕事であって、私の仕事ではありません」、「お手並み拝見といったところかな」などと言っているようでは困ります。職場というものは、誰かがいつも気にしてくれている、見ていてくれる。何かあったら助けてくれる。そんなことを感じられる関係や場でなければなりません。こんな雰囲気が部屋いっぱいに広がっている、そんな信頼の基盤とも言える場が必要なのです。

自分の今いる安心できる世界、安定した世界から、不安定で危険な世界に移るときには、このような信頼の基盤が必要となってくるのです。不安やストレスといった重い錘を押し戻し、自分の気持ちのバランスをとるためには、人と人との信頼というものが必要となります。何かあったら、戻れるところ、或いは、助けてくれる人たちといったことが、難しい仕事を成し遂げ、人を成長させるのです。

信頼は、とくにストレス下で仕事を遂行するためには欠かせないものである。リーダーと部下との間に信頼関係がある場合、部下がストレスを感じると、あなた(リーダー)への信頼や信用が、恐れや不安を制御する盾のように働く。- ニューヨーク消防局消防隊 隊長 - (P105)
John Salka / Barret Neville (2004) “First in, Last out: Leadership Lessons from the New York Fire Department (人を動かす火事場の鉄則)” Portfolio Trade (講談社)


2011年1月8日土曜日

15.率直さを奨励し“イエスマン“を認めない

今、まさに起ころうとしている事態について正確に理解できたとしても、ここで問題となるのは、それを誰が知ったのか、つまり、これを知った人の立場が問題になります。

もし、何か良くない前兆を知った人が、その分野において経験の少ない人であったなら、経験豊富な人に対し、言い難い状態となってしまいます。更に、経験だけでなく、立場も弱いため、どのように評価されるのかということも気になり、ますます、言い難い状態となります。よほどの人で無い限りは、「ちょっと待てよ」「もうちょっと様子を見てから」などという気持ちがわいてきます。

また、言われた側が、キチンと受け止められるかどうかも問題になります。「何を言っているのか。そんなはずはない」、「自分がちゃんと確認したことだから」、「ごちゃごちゃ言うんじゃない」などともし言うのであれば、言いづらい雰囲気を職場全体につくってしまいます。ベテラン社員には、経験に基づく、いろいろな判断の物差しがあると思いますが、この物差しで測れないことについて、一方的に否定する、否定しようとする雰囲気を作ってはいけません。

 どうしても人は、人によく思われたいという気持ちが起こります。特に、まだ、キャリアがスターとしたばかりの人にとっては、自分がどのように評価されるのかということは、非常に気になります。同期との差は、この時点ではさほどないため、将来を左右することになるかもしれないと考えるようなこともあると思います。このため、なるべく相手に受け入れられるような言動や態度をとってしまいます。これでは、プロとは言えないとはわかっていても。

事が起こる前に知った前兆に対して、回避策がとられることなく放置されるようなことがあってはなりません。このため、経験の豊富な人、立場の上の人は、プライドなどに気をとられることなく、誰もが今起こっていることを率直に伝え易い雰囲気を作ることがたいせつです。進言や意見を感情的にひたすら否定するようなことがあってならないのです。

上官達は部下達の率直さを奨励すべきであって、決して上官風を吹かせてはならない。自分の昇進を目的とした迎合的態度、すなわち“イエスマン”としての行動は許容されないのだ。- 米国海兵隊 -(P71)
北村淳 / 北村愛子 (2009) “アメリカ海兵隊のドクトリン” 芙蓉書房出版