2011年9月1日木曜日

19. 具体的な達成点

目標を持つことなく、なんとなく仕事をするようなことは、特に最近では、少なくなってきました。会社全体や部門だけでなく、個人単位に目標を設定し、達成に向けて行動することが、営業職以外でも一般的になっています。

そして、この目標達成に当たっては、単に目標を掲げるだけでなく、どのように達成するのかを具体的に考えたり、また、途中の過程については、進捗管理が頻繁に行われたりします。販売部門における売上目標、特定の商品の販売目標、最終的に個人の評価に繋がる業務目標、改善活動における目標など、立場の違いにより、いろいろな目標と関わることになります。

しかし、この目標も、初めから実現性について疑問視される、いわゆる「努力目標」や、達成することよりも、目標を設定することに注力してしまうようなことも依然としてみられます。

ちょっと、いくらなんでもこれは無理なんじゃないかなあ」、「どういう根拠で決めているのか分からなけど、年々目標が上がっているよなあ」、「これって、なんかやれそうな気がしないよなあ」などという会話が職場において聞かれることがあります。
目標は、雲をつかむようなものであってはいけません。具体的な達成への道筋が伴っていなければなりません。「達成することが望まれる目標」ではなく、「必ず達成する目標」を設定しなければなりません。掛け声的な目標に満足することなく、達成への過程を具体的に考え、行動計画へと結びつけられるようなものを目標とする。こんな目標でないならば、達成の見通しは、最初から低いということになってしまします。


「目標(Objective)は、「達成可能な到達点」で、抽象的な目的(Object)とは異なる。言い換えれば、「だれが(Who)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「何を(What)」「いかに(How)」するかの5W1Hがはっきりしている具体的な達成点である。- 軍事評論家(元陸上自衛隊陸将補) -”(P47)」

松村劭 (2003) “勝つための状況判断学:軍隊に学ぶ戦略ノート (PHP新書)” PHP研究所

2011年4月29日金曜日

18. エネルギーあふれるチーム

勢いのある集団を作り上げるために、モチベーションというものに関心が寄せられています。特に最近では、この傾向が強く、少々関心が向きすぎているような気がします。人やチームの高揚は、「モチベーションという名のスイッチ」を誰かが押して生まれるものではありません。もちろん、報酬や制度といった仕組みも大切ですが、これらは、動かし難いものに対して何とか外部から刺激を与え、動かそうとするものです。本当に、人はそのようなことだけで必死に努力し、そして勢いのあるチームが生まれのでしょうか。ちょっと無理があるような気がします。

まず、大前提となるのは、メンバーやリーダー同士が信頼し合うことができるのかということです。お互いのことを気にする気持ち、気にかける気持ちが、まず、必要なはずです。これは、組織の制度や管理手法の問題ではありません。最近は、人と人とのつながりが重要であると言いながらも、実際にはあまり重視されておらず、むしろ、軽視されているように思えます。

また、別の見方として、意図的にではなく、自然とあることに意識を集中し、時間を忘れるほどの高揚感を得るという状態を研究した「フロー理論」というものがあります。外部からの強引な刺激というより、ある条件が整ったときに何かの力に自然と動かされるような感覚で行動し、高い成果を上げる、そんなことの存在が関心を集めています。制度、報酬、管理手法という「外圧」の世界から、「人」を中心とした考え方へと、ようやく一歩進もうとしています。

今までの取り組みは、扱い易いことについては手厚く対応し、扱い難い「人」の問題については、掛け声だけで、根本的なことに手をつけることなく、仕組みや制度で何とか対応したように見せようとしているように思います。そろそろ、こんなやり方から離れ、人と人との関係について、真剣に考えていく時期に来ていると思います。価値ある商品やサービスを生み出すのは、仕組みや制度といった外部からの人工的な刺激ではなく、人の内側から生まれるものや、信頼の絆で結ばれた仲間たちの存在なのではないでしょうか。

スタッフはまずお互いを思いやることが大切だと理解できてこそ、お客様に対して意義あるもてなしができるのだ。レストランだけでなくどのような分野でも、メンバーが互いに尊重しあい、信頼しあうことで、エネルギーにあふれ、しっかりと動機づけのできた勝てるチームを作っていける。ニューヨーク レストラングループ オーナー (P175)」Danny Meyer (2008) “Setting the Table: The Transforming Power of Hospitality in Business (おもてなしの天才:ニューヨークの風雲児が実践する成功のレシピ)” Harper Paperbacks (ダイヤモンド社)

2011年3月21日月曜日

【特別編】 自衛隊の活躍

地震、原発の今、自衛隊が活躍している。(もちろん警察、消防もだけど)

普段、あまり目立たないというか、微妙な立場にいる自衛隊ですが、やっぱり、国の非常事態では、日々訓練をしている統制のとれた組織が非常に重要となります。道があって、電気があってという時には、警察と消防で対応できると思いますが、やはり、何も無いところでも、行動できるのは、自衛隊のような方々に頼るしかない。今回も、私たちは彼らの頼るしかない。感謝しなくては。

自衛隊の活躍の様子は、TVで紹介されているけど、でも、実際にどんな思いで行動しているのかは、私たちが知る機会は少ない。ちょっと、古い事件ですが、自衛隊の方々の活躍の様子を知る事ができる書籍を紹介したいと思います。実際に指揮官としてたずさわった方が書いているので、リアリティがあります。

福山 隆 (2009) "「地下鉄サリン事件」戦記:出動自衛隊指揮官の戦闘記録" 光人社

2011年2月12日土曜日

17.信頼の生まれ方

チームワークや信頼関係というと、長く一緒に働いている者同士において、自然に生まれてくるもの、自然に培われていくことのようにも思えますが、このようなことが期待できない場合もあります。仕事の性質上、時間をかけて自然にということが成り立たない世界があります。専門性の高い者同士が、その場、その場で一時的に集まり、目標を達成し、そして解散するような仕事です。

このような仕事においては、初対面の者同士が、一瞬で、相手とのコミュニケーションをとり、できるかぎりの関係を築くことが求められます。簡単な挨拶や自己紹介のようなことでさえも、ここでは、非常に重要になってきます。

少し古い話ですが、以前、イベント関係の仕事に関わっていたことがありました。このとき、決められた時間に会場に行くと、本日限りの付き合いでしかない様々な立場の関係者同士が、必ずキチンと挨拶をしていたのを良く見かけました。挨拶が基本だと言わんばかりの光景でした。今、考えれば、これも、名前も顔も知らないもの同士が一日限りの仕事をスムーズに行うための重要な技なのだと思います。

信頼関係は、時間が勝手に築いてくれるものではありません。日々の行動や経験、組織の共通の価値観、専門性の高い物同士の敬意、ちょっとした言葉のやり取り、厳しい訓練や乗り越えた危機的な状況が、この信頼の基盤を少しずつ築いていくのです。

ほんの一日や一回だけの仕事であっても、仕事にはお互いの信頼というものが必要になります。少なくともここでは、信頼関係とまでは行かなくても、その瞬間にできるかぎりの心のつながりをつくることが求められます。そして、そのためには、ちょっとした挨拶や会話ですら重要な意味をもつことになります。

毎回違うメンバーでフライトをするため、ブリーフィングでの情報や意識の共有化は必須ですし、ここから生まれる雰囲気でその日のフライトが左右されるといっても過言ではありません。チームワークでひとつのフライトを創りあげるCAにとって、ブリーフィングの位置づけはとても大きいのです。- 旅客機 CA(キャビンアテンダント) - (P38)
里岡美津奈 (2009) “スーパーCAの仕事術” メディアファクトリー

2011年1月27日木曜日

16.ストレス下における「信頼関係」

チームにおけるお互いの信頼関係。このような言葉は、なんとなく大切であることは理解できますが、これが具体的になぜ必要なのかと問われると、ちょっと首をひねってしまうかもしれません。普段の仕事においては、信頼関係について、特に気にすることもなく、無くても何がどうなるというものでもない、そんなふうに考えているかもしれません。確かに、決まりきった仕事をする上では、あまり意識する必要はないかもしれません。

しかし、非常に精神的に強いストレスを感じるような場面では、話が全く違ってきます。危険を伴うような仕事、自分の能力を上回る仕事、何が起こるか分からないような不確定要素の多い仕事、何かの強いプレッシャーを感じてしまうような仕事においては、この信頼というものが必要となってきます。信頼関係というものは、不安やストレスから身を守る心の安全ネットのような役割を担います。このような安全ネットがあって初めて、ストレスやリスクのあることに向かって立ち向かうことができるのです。

「そんな仕事、まだやってたんだ」、「それはあなたの仕事であって、私の仕事ではありません」、「お手並み拝見といったところかな」などと言っているようでは困ります。職場というものは、誰かがいつも気にしてくれている、見ていてくれる。何かあったら助けてくれる。そんなことを感じられる関係や場でなければなりません。こんな雰囲気が部屋いっぱいに広がっている、そんな信頼の基盤とも言える場が必要なのです。

自分の今いる安心できる世界、安定した世界から、不安定で危険な世界に移るときには、このような信頼の基盤が必要となってくるのです。不安やストレスといった重い錘を押し戻し、自分の気持ちのバランスをとるためには、人と人との信頼というものが必要となります。何かあったら、戻れるところ、或いは、助けてくれる人たちといったことが、難しい仕事を成し遂げ、人を成長させるのです。

信頼は、とくにストレス下で仕事を遂行するためには欠かせないものである。リーダーと部下との間に信頼関係がある場合、部下がストレスを感じると、あなた(リーダー)への信頼や信用が、恐れや不安を制御する盾のように働く。- ニューヨーク消防局消防隊 隊長 - (P105)
John Salka / Barret Neville (2004) “First in, Last out: Leadership Lessons from the New York Fire Department (人を動かす火事場の鉄則)” Portfolio Trade (講談社)


2011年1月8日土曜日

15.率直さを奨励し“イエスマン“を認めない

今、まさに起ころうとしている事態について正確に理解できたとしても、ここで問題となるのは、それを誰が知ったのか、つまり、これを知った人の立場が問題になります。

もし、何か良くない前兆を知った人が、その分野において経験の少ない人であったなら、経験豊富な人に対し、言い難い状態となってしまいます。更に、経験だけでなく、立場も弱いため、どのように評価されるのかということも気になり、ますます、言い難い状態となります。よほどの人で無い限りは、「ちょっと待てよ」「もうちょっと様子を見てから」などという気持ちがわいてきます。

また、言われた側が、キチンと受け止められるかどうかも問題になります。「何を言っているのか。そんなはずはない」、「自分がちゃんと確認したことだから」、「ごちゃごちゃ言うんじゃない」などともし言うのであれば、言いづらい雰囲気を職場全体につくってしまいます。ベテラン社員には、経験に基づく、いろいろな判断の物差しがあると思いますが、この物差しで測れないことについて、一方的に否定する、否定しようとする雰囲気を作ってはいけません。

 どうしても人は、人によく思われたいという気持ちが起こります。特に、まだ、キャリアがスターとしたばかりの人にとっては、自分がどのように評価されるのかということは、非常に気になります。同期との差は、この時点ではさほどないため、将来を左右することになるかもしれないと考えるようなこともあると思います。このため、なるべく相手に受け入れられるような言動や態度をとってしまいます。これでは、プロとは言えないとはわかっていても。

事が起こる前に知った前兆に対して、回避策がとられることなく放置されるようなことがあってはなりません。このため、経験の豊富な人、立場の上の人は、プライドなどに気をとられることなく、誰もが今起こっていることを率直に伝え易い雰囲気を作ることがたいせつです。進言や意見を感情的にひたすら否定するようなことがあってならないのです。

上官達は部下達の率直さを奨励すべきであって、決して上官風を吹かせてはならない。自分の昇進を目的とした迎合的態度、すなわち“イエスマン”としての行動は許容されないのだ。- 米国海兵隊 -(P71)
北村淳 / 北村愛子 (2009) “アメリカ海兵隊のドクトリン” 芙蓉書房出版