2010年7月31日土曜日

11.敵を作らない

話の進め方として、「相手を追い詰めない」ということだけでなく、自分と相手を敵対関係として位置づけることも、また、良くないことです。

例え立場の違いから意見や利害が対立していたとしても、それ以上に相手を思っているわけではありません。意見を否定しているだけで、その人を否定しているわけではありません。しかし、こちらが敵対的な態度で、強引に話を進めたり、何か不利になる状況をわざわざつくるようなことがあれば、相手も同じように相手を敵とみなします。

自分に何かの事情があるように、相手にもいろいろな事情があります。意見が重ならないことを自分と相手の問題と捉えてはいけません。そして、その違いを、その時だけでなく、永久的に続くものと思うのも間違いです。あるとき、ある人とある人の持つ意見が違っているだけのことなのです。もう少し、相手の事情やその背景を知る努力ができるのであれば、意外に、表面的な意見の違いはあっても、考えていることにさほど違いがないことに気づく場合もあります。しかし、なかなか人の気持としては、この様に捉えることができずに、即座に、迷うことなく、相手との敵対関係を作ってしまうことがあります。

対立関係が出来てしまっても、あくまで、「我々」という視点で考えることが必要です。自分の意見や立場を守るため、敵として扱うことは、結果的に自分に良くない行為として跳ね返ってきます。対立するような場面においても、敵を作らない。むずかしいことかもしれませんが、対立関係において、最も気をつけなければならない大切なことなのです。

「映画界で突然キャリアが停止して脱落していく俳優のリストは、敵を作ったり、人の足を引っ張ったりした者のリストと一致する。- ハリウッド映画俳優 - (P133)」
Michael Caine (1990) “Acting in Film (映画の演技)” Applause Theater Book Publishers (劇書房)

2010年7月3日土曜日

10.相手の気持を読み取る

「何とか上手い合意点で話を収めたい」そう思っている相手と話すのであれば良いのですが、必ずしもそんな場面だけとは限りません。時には、全く話す気の無い相手と、話をし、自分の考えを受け入れてもらうことが必要なときもあります。

こんな時には、まず、自分の考えよりも自分自身を受け入れてもらうことが大切です。話を始める前に何か良くない評判や体験を持っており、話す前から信頼とは程遠いような位置にいることがあります。また、始めは十分、建設的な態度で臨んでいたとしても、話の途中で相手の言葉づかいや態度を不快に思い、徐々に感情的になり不信感が増大してくるようなこともあります。

信頼関係が崩れていたり、そもそも無かったり、感情的な面があらわになってきたときなど、話をしようとしている側も、不安定な気分に陥っていきます。このような状態になったとき、ここから抜け出すためには、できるだけ話を整理し、きちんとした話し方をすべく、冷静になり、論理的に整理して話そうと考え、努力することがあります。しかし、これは、たいへん危険な行為です。良かれと思ってやる行為ではありますが、相手にとっては、そうとは受け取れず、逆に、さかなでするというか、いわゆる火に油を注ぐ行為となってしまいます。

このため、対立する状態においては、なによりも相手の気持をまず理解することがたいせつです。相手も相手の立場で考え、話しているのですから、相手なりの考えがあるはずです。これを無視しつづけても、話がかみ合うはずもありません。

交渉という場面においても、まず、信頼関係を築かなければ、相手も話を聞こうとしません。特に、そもそも交渉のテーブルにつこうという気の無い相手と、話をしなければならないときなどは、まず相手の感情を理解し信頼関係を築くことが、最初に行われる最も重要なことです。この壁を越えない限りは、一歩も先へは進めません。

人質交渉では、相手の感情を読もうと耳を澄ますことが非常に重要だ。一つには相手の人柄や精神状態を知る鍵となるためだ。いや、もっと大切なことがある。耳を澄ませて相手の感情を知ることで、信頼関係を築き、相手と話をする方法がわかることだ。- 元ニューヨーク市警 警察官(交渉人) - (P109)」
Dominick J. Misino (2004) “Negotiate and Win: Unbeatable Real-World Strategies from the NYPD‘s Top Negotiator (NYPD No.1 ネゴシエーター:最強の交渉術” McGraw-Hill (フォレスト出版)