2010年6月19日土曜日

9.押し付けない

最初から最後まで、自分たちのベースで交渉を進めたいものですが、これがそう上手くは行かず、焦りもあって、つい、強引な流れで進めようとしてしまいます。一つひとつ論理的な攻め方をした場合、その内容が事実に基づくのであれれば、相手はもう認めるしかなくなります。この流れを食い止めるには、感情的に応戦するしかありませんが、もし、自分たちの主張を相手が認める方向で話が進んできたなら、このまま合意という方向に流れます。

しかし、このように自分たちには思いどおりに進んでいるように見えても、実は見えないところから、逆の流れが沸き起こってくることがあります。また、思い通りに進めている側も、うまくいっていると思いこみ、今起こっていることに気がつかない傾向にあります。このため、最後の最後で、突然、思わぬ方向に進み、意図しない結果をもたらしてしまうことがあります。

このことは、交渉時に限らず、業務改革などを進めるときにも起こります。合理的な説明で新しいやり方の必要性を主張する推進派に対して、現場の実務者たちは、最初は異議を唱えたり、議論しようとします。しかし、強引に進める雰囲気を感じたり、論理的に理路整然と反論してきたときには、一時的に合意したような態度を示します。実際は、全く逆です。反対の意志をより強固なものとし、その意志を明確に示すタイミングを見計らっているだけです。

論理思考を教える研修においても、「相手に自分の意見を伝えるというのが目的であり、ロジックに気を取られ過ぎては、相手に正しく伝わらない」といった話をすると、参加されている方々は、何かほっとしたような雰囲気をみせることがあります。論理が必要なことは十分理解できるが、このような攻め方だけでは、上手く行かないことに多くの人が気がついているようです。

自分たちの思い通りにしようと合理的に話を進めていくと、相手は追い詰められていき、そして、相手の反発心を育てることになります。思い通りにしようとすればするほど、そうしたくないという強い感情を増大させ、これが最終的に不本意な結果をもたらすことになるのです。

「こちらのスタイルばかりを押しつけて交渉を進めていると、順調そうに見えて、逆に相手を追い詰めてしまうことにもなりかねない。結果、状況は決していいほうには転がらないだろう。- 国際スポーツイベント 誘致ロビイスト - (P35)」
諸星 裕 (2007) “プロ交渉人:世界は「交渉」で動く (集英社新書)” 集英社

2010年6月9日水曜日

8.「脅し」は「悲鳴」

心理的な戦術としての怒鳴る、声を荒げるといったテクニックも、あまりに激しく繰り返されると、交渉というより脅しととれるようなことがあります。これは、非常にやりにくい状態です。まともに話が進みそうな気がしません。そんなときには、ここでも、これをまともに受けるのではなく、冷静に考えてみることがたいせつです。

これも本当の意味での相手の感情ではなく、そんなに切羽詰ったテクニックを使用してくるということには、それなりの理由がある。或いは、先程まで、冷静に話を進めていたのにもかかわらず、突然、感情的に攻めてくるというのは、何か冷静でいられない理由がそこにあった。そんなふうに考えてみると、実は、相手が非常に苦しい立場に追い込まれていることに気がつきます。

このような態度は、「もう、これ以上は無理だ、どうにもならない」、「この辺でやめにしてくれ」といったメッセージであるとも言えます。脅しともとれるような罵声は、追い詰められた側が、最後の手段として、使ってくるテクニックでもあるのです。

その場の様子や言動に対して、そのまま反応してはいけません。そのまま受け取るのではなく、むしろ、逆さまに受け取ったほうが、正しい理解となるのかもしれません。

脅しや怒鳴り声には、冷静に対応することが重要です。決して気分の良いことではありませんが、言葉どおりに受け取るのではなく、これにより相手の限界を知り、この限界に対して適切な対応ができるようにすることが大切です。

相手の脅しは、結局のところ、これ以上踏み込まれると倒れるからやめてくれという相手からの悲鳴と同じなのである。怒声を浴びせられたら、こちらはじっくり冷静に応答するようにしたい。- 元外務省 北朝鮮班長/外交官 - (P169)
原田武夫 (2006) “元外交官が最前線で見てきた 超一級の外交術:勝者が必ず踏んでいた「7つのプロセス」とは” 青春出版社